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《巫楽》キム・ソクチュルと東海岸巫俗/巫楽〜韓国東海岸巫俗サムル (2014REMASTERING)

●驚異のポリリズム打楽器群がフルパワー、フルスピードで疾走。目眩のするほど複雑なアンサンブルの妙技と、研ぎ澄まされたスラッシュなキレ味の妙味を見せつける恐怖のアシッド/トラッド作。


  • Kim SukChul
    (janggo, kkwaenggwari, hojok)
  • Kim KimYoungTaek
    (janggo)
  • Kim DongYeul
    (jing)
  • Kim JungHee
    (kkwaenggwari)
  • Kim JungGuk
    (kkwaenggwari,bara)
  • 01. Pu-no-ri
    - Korean Traditional
    02. Deu-reong-gaeng-i
    - Korean Traditional
    03. Bae-gi-jang
    - Korean Traditional
    04. Dong-sal-pul-i
    - Korean Traditional
    05. Geo-mu-jang
    - Korean Traditional
    06. Sa-ja-pul-ii
    - Korean Traditional

  • Recorded at TGR Studio, Korea, September 1993
  • Mastered at Seoul Studio, Seoul Korea
  • Produced by Sohn, Ah Sun(Sound Space) and Shimizu Ichiro (Sound Space)
  • Engineered by Uetsuki Takashi(Delta Studio)
  • Masterd by Ko Hee Jung(Seoul Studio)                                                                                                                                                                                                                       以前、縁あって金石出と東海岸巫俗一行の京都公演に密着取材する機会に恵まれた。彼等の明るく暖かい素顔に触れた思い出は忘れがたいものだが、何もりも彼らの打楽器アンサンブルを間近に見たときの衝撃は大きかった。それは最初、「何だ、これは?」という純粋な疑問の形でやってきた。しかしやがてその疑問は、彼らのリズムの仕組みを知りたいという欲求に姿を変えていった。そう思わずにはいられない何かがそこにあった。そして今このアルバムを聴き、その思いを新たにしている。以下はその「知りたいこと」の覚え書きのようなものだ。


    <プノリ>を一聴して明らかなように、彼らの打楽器アンサンブルは基本的には明解な拍子と小節感の上に成り立っている。特にこの曲は4/4の4小節進行で、いわゆる西洋音楽的に普通のフォームを持っている。金物のフレーズは、ドラム・セットなどでも頻繁に叩き出される16分のアクセントのヴァリエーションといえる。したがって聴きやすく、シャーマン・ミュージック=わけわからん、という先入観は簡単に裏切られる。彼らの音楽の入門編、といったところだろうか。 
    だがしかし、ここで最初の、そして最大の“?”が生じてくる。すなわち、なぜ日本のすぐ隣の国の伝統音楽が、ここまで西洋的に合理的なのか。常にチンが小節の区切りを示すことからも、ある音型をその場に応じて音符の基礎単位にはめ込んでいくという合理的仕組みの認識に基づいて、彼らがいわゆるポリリズムを奏していることは鑑かであり、“東洋の伝統音楽”を聴くつもりで聴いた場合、とてつもない違和感に襲われるのである。 
    続く<ドロンゲンイ>では、さらなる“?”が生じる。フラットでクールな金物のパターンの中、<プノリ>でも聴かれたラフ系装飾音符を駆使した太鼓の巻き込みフレーズが踊り、かなりキャッチーなモチーフが繰り返される。最大のポイントは常に“余り”を付した全体の形式で、余りの空間をチャングが支配することで、“タメ”と“解放”の爆発的なグルーヴが生じることになる。4/4の5小節進行から(モリーフの前倒しスリップ・ビートなども顔を出す)、突如として4・4・2の変拍子が始まる。先の5小節進行の、ちょうど半分の勘定だ。それぞれ5小節目と2拍子が“余り”。この“1余り”の形式の中、左右の金物とチャングが、アイアート2人とジョン・ボーナムの喧嘩のようなとんでもない会話を繰り広げる。そしてテンポ・アプしたかと思うと、次の展開は予想通りというか何というか、4/5だったりするのである。その後はもう、勝手にしやがれ、だ。……この形式は何なのだろうか。韓国の言葉のグルーヴなのだろうか。何にせよ、よほどの理由がなければここまで徹底的にフラクタル構造を意識した曲が生まれるものではないだろう。 
    さらに<ペギジャン>では驚くべきことが起こる。やはり一風変わった小節進行からの変化の途中、信じがたいのだが、チャングを合図に1拍5連のアンサンブルが挿入されるのだ。16分音符5個ずつのグルーピングならば、まだわかる。だが1拍を5等分した上にフレーズをかぶせるといのは……。彼らが各々、ザッパのところで修行したとでもいうのだろうか。実際、わけがわからないのである。 
    さて、続く<トンサルプリ>は6/8ベースのスピリチュアルな曲で、心地よいタイムの中でいわゆるバー越えフレーズや、無理やり押し込むようなフレーズが頻繁に顔を出す。ここへ至って、彼らの本質は決して謎のリズム・マニアではなく、グルーヴィーな真の演奏家であることに改めて気づかされるのだ。すると、<コムジャン>の3小節進行や変拍子への展開もより自然に感じられ、楽な気持ちで聴くことができるし、世界で最もスラッシュでヘヴィ.メタルな宗教音楽であろう<サジャプリ>に感じられるある種の狂気すら、素晴らしいミュージシャンシップの上に築かれた真摯で美しいアンサンブルの結晶として、心に迫ってくるのである。 
    忘れてならないのは、彼らが何世代もの永きにわたって、「芸」として演奏技術を磨いてきたという事実だろう。血族という最強のバンドで切磋琢磨するうちに、高度のポリリズムが創出され、次の世代がそれを耳と体でマスターしていく。そのようなリズムの生成過程は十分考えられる。奏法にしてもそうだ。彼らはみな、驚くべきダイナミックスと敏感なレスポンスを可能にする、体の中心が不動のまま腕を自由に踊られるという最高の奏法をマスターしている(この演奏スタイルは、奇蹟的なシンクロニシティを現出するアンサンブルの柔軟性に直結している)。彼らは脇を広げ、腕全体を使って叩く。トニーやガッドやディジョネットがそうであるように、彼らもまた身体を決して束縛せず、奏した音符も体から突き放すことで、逆に音符自身に秩序だった宇宙を構築させている。思えば、広義のグルーヴが「その場全体のムード」を意味するならば、打楽器をもって場を支配すし、聴衆を踊らせる仕事師としてのシャーマンが、脇を締めて姑息に叩いていいはずはないのだった。「芸」が「芸術」や「表現」を越えたものだということはバディ・リッチという存在が証明しているが、彼らも「芸人」であるゆえにその演奏内容と技術が奇蹟的な域に達した。それは間違いないように思う。 
    それにしても、彼らのリズム構築のあり方、思想は、やはり一度徹底的に研究されるべきであるもののように思えてならない。その答えはおそらく、日本の打楽器奏者が自らをアイデンティファイする上で、非常に大きなポイントにもなるのではないだろうか。韓国は本当に一番近い国なのか。それとも--陳腐な発想だが__東回りに地球を巡った末に最後にたどり着く、最も遠い大陸の果てなのか。筆者のような素人ではない、プロの研究が待たれるのである。

    石川光則(前・「DRUM MAGAZINE」編集長)
  • 商品コード : SCO-041-CSS
    製造元 : [2014/08/14] SOUNDSPACE/E&E
    価格 : 2,300円(税込)
    [2014年リマスター再発]
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